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「誰が、いつ、盗んだのかわかるのか?」
光は頷いた。
物理的な状況を考えるほうが、品物を思い浮かべるより辛くなかった。
「うちに来た時に、見たんだと思う」
「誰が?」
「淳子」
短く答えると、清正がビクッと身体を離した。
「淳子? ちょっと待て。淳子って誰だよ。家に来たって、どういうことだ?」
「チーフだよ。俺の元上司」
松井淳子。突き出した唇でフルネームを教えた。
「元上司? 淳子っていうからには、女だよな?」
「そうだよ」
去年の春まで、光はラ・ヴィアン・ローズを展開する「薔薇企画」の社員だった。松井は、デザイン部門を取り仕切るチーフデザイナーで、直属の上司だった。
「いくつ?」
「知らない。あ、でも確か七つ上って言ってたかな。三十四歳とか、そのくらい?」
「なんで呼び捨てなんだ」
「さん付けするのが嫌だから」
清正が唸る。
「光の家に来たって……、部屋に入れたのか。……つまり、そういう相手なのか?」
仕事で来たのだが、まあそうだと思って頷いた。
独立したばかりの光は事務所を持っていないので、自宅が仕事場を兼ねている。
清正が質問を続ける。
美人なのかと、どうでもいいことを聞くので、面倒くさくなって薔薇企画のホームページをスマホに表示した。
チーフデザイナー「JUNKO」の文字と、自信たっぷりの笑顔で写った華やかな顔写真が画面に現れる。ちなみに、デザイナー名を「JUNKO」と名乗っているので、社内でも下の名前で呼ぶように、松井自らがまわりに指示していた。
「なんだよ、これ。女優かタレントのプロフ写真みたいだな」
「宣伝用だから」
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