【2】

3/5
2920人が本棚に入れています
本棚に追加
/178ページ
「誰が、いつ、盗んだのかわかるのか?」  光は頷いた。  物理的な状況を考えるほうが、品物を思い浮かべるより辛くなかった。 「うちに来た時に、見たんだと思う」 「誰が?」 「淳子」  短く答えると、清正がビクッと身体を離した。 「淳子? ちょっと待て。淳子って誰だよ。家に来たって、どういうことだ?」 「チーフだよ。俺の元上司」  松井淳子。突き出した唇でフルネームを教えた。 「元上司? 淳子っていうからには、女だよな?」 「そうだよ」  去年の春まで、光はラ・ヴィアン・ローズを展開する「薔薇企画」の社員だった。松井は、デザイン部門を取り仕切るチーフデザイナーで、直属の上司だった。 「いくつ?」 「知らない。あ、でも確か七つ上って言ってたかな。三十四歳とか、そのくらい?」 「なんで呼び捨てなんだ」 「さん付けするのが嫌だから」  清正が唸る。 「光の家に来たって……、部屋に入れたのか。……つまり、そういう相手なのか?」  仕事で来たのだが、まあそうだと思って頷いた。  独立したばかりの光は事務所を持っていないので、自宅が仕事場を兼ねている。  清正が質問を続ける。  美人なのかと、どうでもいいことを聞くので、面倒くさくなって薔薇企画のホームページをスマホに表示した。  チーフデザイナー「JUNKO」の文字と、自信たっぷりの笑顔で写った華やかな顔写真が画面に現れる。ちなみに、デザイナー名を「JUNKO」と名乗っているので、社内でも下の名前で呼ぶように、松井自らがまわりに指示していた。 「なんだよ、これ。女優かタレントのプロフ写真みたいだな」 「宣伝用だから」
/178ページ

最初のコメントを投稿しよう!