【2】

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 元ミスなんとからしいし、素材は悪くないのだろう。専門のヘアメイクとカメラマンを使って、ふだんの数倍増しで、写りがいい。ついでに経歴のほうも、ものは言いようだと感心するくらい巧みに盛ってある。  黙って画面をスクロールしていた清正の手が止まる。 「この男は?」 「ん? どれ?」  端整な面差しに自信に満ちた表情を浮かべた男が写っている。 「社長」 「社長?」 「うん。書いてあるじゃん」  薔薇企画代表取締役社長、堂上由多加。漢字ばかりが並ぶ鬱陶しさを払拭するため、フォントの色や太さまで考えられた文字が綺麗に並んでいる。 「……こいつはどういう男だ?」 「どういうって……、社長は社長だけど?」  光を眼鏡とマスクの生活に追い込んだ元凶が、何を隠そうこの堂上だ。  一見、ノーブルな紳士にしか見えないが、売れると思えばデザイナーやスタッフのビジュアルや経歴まで利用する。油断できない男である。堂上自身や淳子のプロフィール写真も、その容姿が自社のイメージアップになると踏んだからこそ、大々的にホームページに載せているのだ。  光も過去に二回、女性誌のコラムに顔面アップ付きの記事を掲載された。ネットニュースの取材を受けたこともある。  雑誌のほうの一度目は、入社間もない頃。二度目は昨年末の特集記事だった。  二ページ程度の短い記事に顔写真が五枚。雑誌の販売数が減っていると言われる今でも、見ている者は見ている。最近はすぐにSNSなどで拡散される。街中でじろじろ見られては、何か小声で囁かれることがあり、それがひどく鬱陶しい。  自意識過剰だと笑われようと、嫌なものは嫌だった。  顔を隠したくなるのはそのせいだ。一ヶ月も我慢すれば忘れられると知っている。そうしたら、また元の眼鏡マスクなし生活に戻ればいいだけのことだ。  なぜか清正は、眉を寄せたまま画面を睨んでいる。 「どうかしたのか」  光の問いには答えず、「とりあえず、こっちからか」とよくわからないことを呟いて、再び淳子のことを質問し始めた。 「この淳子っていう女は、デザインを盗むためにおまえに近付いたってことか……」 「そうなのかな?」  よくわからない。首を傾げると、清正の眉間の皺が深くなる。 「さっき『殺す』って言ってただろ。家に来て、デザイン盗んでったんだよな」  念を押されて、また悲しい怒りが胸によみがえった。 「殺したい……」 「憎い?」 「憎い!」
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