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「みぎわ、……」  朱里が横から「いいのよ」と言った。 「ごめんね。ちょっと言ってみただけだから」  汀に向かって、もう一度「ごめんね。いいのよ」と繰り返す。それから、そろそろ不用品の引き取り業者が来るのだと言って立ち上がった。  清正と光も腰を上げた。  その時、汀が小さな声で言った。 「みぎわ……、ママとおとまい、しゅゆ」 「え……」  朱里が慌てて、汀と目の高さを合わせる。 「ほんとに? いいの? 汀だけで……」  汀は頷いた。 「みぎわ、よんしゃい」  指を四つ立てて誇らしげに朱里の前に突き出す。 「そうね。そうね。大きくなったわね」  朱里は何度も頷いて、汀をしっかり抱きしめた。  冒険の疲れが出たのか、汀は少し眠そうだ。業者に立ち合うだけなので、朱里はずっと部屋にいるという。少し眠らせて、夕方水族館に行って、その後近くのホテルに泊まると、予定を告げる。  清正は、明日の昼、搭乗手続きをする前に汀を空港まで迎えに行くと約束した。  半分うとうとし始めた汀と朱里を残し、清正と光はアパートを後にした。  外に出て二人きりになると、なんとなく気詰まりな空気になった。喧嘩別れのように光が上沢の家を出てから数週間が経っている。何を話していいかわからなかった。 「朱里が……」  清正が口を開いた。少し無理をしている気配がある。 「朱里……、光が作った名札、すごく喜んでた」 「あ……、うん」 「ありがとな」  ちょっと泣いてたぞと言われて、照れくさくなった。けれど、すぐにまた話題がなくなり、気まずく黙り込んだまま駅前の道を渡った。  渡れば、すぐに駅だ。気まずい空気が消えないまま、ホームへの階段を昇る。
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