【20】 ※R18

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 一方、清正と朱里がよりを戻したという誤解の原因は、汀の保護とともに解き明かされた。 保育所の職員が光を汀の「母親」だと思い込んでいたのだ。  汀の送り迎えを光がするようになった時、清正は保育所の連絡ノートに光の名前と携帯番号を書いた。その際に家族の欄を使用したために、職員たちはすっかり勘違いしてしまったのだ。  保育所の先生に「よかったね」と言われた汀は、意味を理解しないまま、光や聡子に伝えた。よく聞いてみれば、聡子も汀の言葉をそのまま信じただけだったのである。 『光くんなら、そんなこともありそうねぇ』  職員の勘違いを知った聡子は、呑気に笑って流していた。  汀は三月いっぱいで、その保育所を退所する。とてもよくしてもらい、長く世話になった保育所なので、職員との別れは少し辛い。  けれど、清正と汀と光でよく話し合った結果、四月からは体験保育に行った近くの幼稚園に通うことにしたのだった。  送り迎えは光が引き受ける。どんなに仕事が忙しくても自分の時間を自由に管理できるのがフリーのいいところだ。  堂上の過密スケジュールの合間を縫うようにして、マンションを解約し、全ての荷物を光は上沢の家に運んだ。  薔薇の庭のある懐かしいその家は、その日から清正と汀と光の家になった。  そして、五月――。  『ブルーローズ』がオープンし、光が大賞を取ったシリーズ作品「Under the Rose」が発売された。  それは瞬く間に売り切れてしまい、さすがの堂上をも驚嘆させた。 「すごい人気だね。あちこちでニュースになってるよ」  薔薇企画の本社に出向くと、いつにも増して機嫌のいい堂上に出迎えられる。  話題になった理由の一つは、堂上が付けた値段にもある。思わず笑ってしまうほどの価格なのだ。桁を一つ間違えたのではないかと疑いたくなる。 『高すぎない?』  会議の席で光も意見を言ったのだが、堂上はただ見ていろと笑うばかりだった。今もほくほく顔で笑っている。
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