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「全然高くなかっただろう。あれにはそれだけの価値があるんだよ。人に欲しいと思わせれば、どんなに高くても買わせることができる。いい証明になったね」
これからもどんどん高額商品を売り出して、たくさん利益を上げようと堂上は張り切っている。
結局、清正をけしかけ、光の中の秘密の鍵を開けさせて、一番得をしたのは堂上だったのではないだろうか。どこまでも抜け目のない男だ。
「光、ここにいたのか」
ようやく一息吐いた連休の三日目、庭に出てスケッチをしていると、テラスドアから清正が顔を出した。聡子が上京していて、少し前に汀と動物園に出かけていったところだ。
「暑いから、昼飯、素麺でいいか」
「うん」
庭は楽園の季節を迎えていた。
青いベンチの隣に清正が腰を下ろす。花は歓喜に満ちて勢いよく咲き誇っている。それをいくつか写し取ったスケッチを、清正は眩しそうに見下ろした。
「光は、いつもここで絵を描いてたな」
「そうかも」
「あの日も、そうだった。スケッチブックを抱えて、うたた寝してた」
うん、と微笑んだ光を清正が抱き寄せる。
「薔薇の下には秘密があるのか?」
「うん。大事なものは秘密にしておくんだ。誰にも壊されないように」
「なるほど」
清正が光の手からスケッチブック取り、脇に置く。
「だったらこれも秘密だな」
そう言って、零れるアンジェラの下で光の唇を啄んだ。
了(2018.2.28)
(2018.12.21改稿)
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