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満面の笑みで小さな両手を伸ばしてくる。光は反射的に魅惑の三歳児を抱き上げた。
やわらかい頬がマスクを通して鼻先に触れ、柔軟剤とベビーローションの匂いがふわりと漂った。愛しさが胸を満たし、さっきまでの怒りがひとまずどこかに遠ざかっていった。
清正の手が伸びてきて、光の顔からマスクと眼鏡を外す。
「また変装生活か。大変だな」
人形のようだと評される顔があらわになり、汀の小さな手がぺたぺたと触れてきた。何が楽しいのか、きゃっきゃっと鈴を転がすように笑う。
「とりあえず入れ」
清正の言葉に汀の顔がパッと輝く。
「ひかゆちゃん、あしょぶ?」
「んー、どうしようかなぁ」
汀は清正の一人息子だ。
清正は光の十数年来の親友で、大手食品メーカーに勤務するそこそこエリートのサラリーマンであり、バツイチのシングルファーザーでもある。長身でイケメン、現在独身、子連れのハンデはあるものの、優良お買い得物件らしく超絶賛モテモテ中。
なんであんなにモテるのだろう。清正は昔からバカみたいに女の子にモテた。
つきあった相手の数は両手両足の指の数を合わせても足りないくらいだ。正確な人数を本人も把握していないのではないかと思う。
その清正が結婚したのがおよそ四年前。あまりに短期間に相手が変わるので、逆に結婚はしないだろうと思っていたのに、まだ大学を卒業したばかりの社会人一年目の十二月、突然籍を入れたと連絡があった。
汀が生まれたのはそのすぐ後で、それから一年経つ頃には清正は独身に戻っていた。
せっかく配属された研究開発職を棒に振り、三年間という期限付きながら、同じ企業内のバックオフィス、残業の少ない庶務課に異動して、男手ひとつで汀を育てている。実家の助けもほとんど借りず、手間と愛情をかけて大切に、ほとんど溺愛と言っていいレベルで。傍で見ていても感動するくらいだ。
その甲斐あって汀はすくすくと元気に成長していた。今は一番可愛い盛りだ。天使そのものと言っても過言ではない。
心地よい重みを味わっていると、光の明るい茶色の瞳を清正の黒い瞳が覗き込んできた。
長くなった光の髪を、節の目立つ長い指で軽く梳く。
心臓がコトリと小さく鳴った。清正の手に触れられると時々身体がかすかな熱を持つ。
それに気付かないふりをして、光はそっと視線を逸らした。
もぞもぞ動き始めた汀を下ろして靴を脱いでいると、頭の上から清正が聞いた。
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