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けれど、光が届けたかったものはあれではないのだ。
もっと小さな子どものいる家庭に置いても、安心で安全な、軽やかなものを作りたかった。
「あんなの、作りたくなかった」
「また、わけわかんねえことを言うなぁ。あんたがデザインしたんだろ」
「だけど、あんなの……」
「まあ、わかったよ。あんた、口で説明すんのは下手だけど、俺の仕事を信用してくれてるのは知ってるからさ」
うつむく光の手からランプを受け取って、村山は呟いた。
「せっかくいい感じの寸法に仕上がったのにな……」
村山が箱を用意している間、光はぼんやりと照明器具の試作品を眺めていた。
外にもう一台クルマが停まる気配がして、入り口のサッシを誰かがガタガタ鳴らした。
「大悟、いるかい?」
村山が舌打ちする。
「……ったく、どいつもこいつも。カレンダーってもんを知らねえのかよ」
「あ。やっぱり、いるじゃないか……。おや? なんで、光がここに?」
仕立てのいいスーツに身を包んだ男が、優雅な仕草で作業場を横切ってくる。甘くスパイシーな香りがかすかに漂った。
「社長……」
「なんで、おまえまで来るんだよ」
大口取引先の社長である堂上に、村山はひどくぞんざいな物言いをする。
四十代の堂上は、年齢的にも村山より上だ。しかし、堂上のほうでも気に留める様子はない。どうやら個人的にも親しい間柄なようだ。
作業台の上に並ぶ照明器具を見て、堂上が聞いた。
「それは?」
「勝手に入ってくるなよ。他社の人間に試作品見られたらヤバいことくらい知ってるだろ」
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