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「……うちの、新商品? いや、少し違うな」
「だから、見るなって言ってるだろ」
村山が急いで試作品を箱にしまう。
「どういうこと? どうして、ここにそれがある?」
「別にいいだろ」
「よくはない。状況だけで判断すれば、それはうちのコピー商品だよ」
「はあ?」
気の短い村山が威嚇するように一歩前に出る。長身の二人が厳しい表情で睨み合った。
「コピーなんかじゃない」
光の言葉に、堂上が振り向いた。
「どういうことか、事情がわかっているなら説明してくれる?」
「あいつが……、淳子がデザイン盗んだ」
堂上と村山が同時に大きく目を見開く。
光はそれきり唇をぎゅっと結んで横を向いた。証拠はない。信じるか信じないかは、それぞれが決めることだ。
しかし、どちらも「本当なのか」とは聞かなかった。
光とのつきあいはそれぞれ六年目になる。頑固で扱いにくく、時によくわからない言動でまわりを振り回すことはあっても、嘘や冗談でそんなことを言うことはないと、二人はよくわかっているのだ。
一度スマホを手にした堂上が、やや迷った後でそれをポケットに戻した。今、松井に聞いても無駄だと判断したのだろう。
「証拠は、ないんだね……」
光は頷いた。
仕事部屋にあったのはスケッチだけだ。最初のアイディア出しのほとんどを、光はペンや鉛筆などで紙に描いてゆく。プレゼン用にデジタル化するのは最後のほうで、その作業をする時には頭の中で製品が完成している。試作品が先にできていることも多かった。
デジタル化した日付や、試作品を発注した時期が証拠になるかもしれないが、今、すでに店頭に並んでいるのなら、松井のほうが先に動いている可能性も高い。スケッチブックに残る日付も、後から書き入れたのだと言われればそれまでだ。
デザインが盗まれたことを、第三者に証明することは難しいだろう。
「気付いたのは、いつ?」
「昨日」
店に並んでいるのを見たと告げる。
「昨日……。盗まれたのがいつかは、わかるの?」
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