【12】

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 時間が半端で、少しの間、リビングのテーブルで絵を描いて過ごした。汀が描く絵を横で見ながら、光も好きなものを描いた。そうするうちに、少し気持ちが落ち着いてきた。 「そろそろ、行くか」 「あーい」  シャツとズボンを直して、よそゆきの新しいコートを着せた。フード付きのベージュのコートは汀によく似合っていた。もう一度顔を拭いてやり、髪を軽く梳いて、小さな紳士を完成させた。 「デートなんだから、カッコよくしないとな」  駅まで、十分と少し。早めに家を出て、手をつないでのんびり歩いた。幼稚園の前を通る時、砂場を見つけた汀が足を止めた。遊びたそうにじっと見ている。 「水族館、行くんだろ」  黙って頷くけれど、歩き始めてからもちらちらと砂場を振り返る。こんな時、清正はどうしていただろうと考えて、なぜか古い記憶がよみがえった。 『光、明日また来よう』  林の中でどんぐりを抱えた光の頭を、そう言って清正は撫でた。夕暮れが迫って、あたりは暗くなり始めていた。清正は少し困った顔をしていた。  あの時の自分と今の汀は同じなのだろうか。そう思うと、ちょっと複雑な気分になる。 「汀、明日また公園、行こうな」  頭を撫でてやると、汀は一度光の顔を見上げ、すぐに前を向いて歩き始めた。  駅について階段を上がると、改札前のコンコースに女性の姿があった。 「ママ!」 「汀!」  駆け寄った小さな身体を抱き上げて、朱里がぱっと笑った。 「四歳、おめでとう」  汀がキャッキャッと笑う。光は離れて、その人を見ていた。  綺麗な人だ。
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