【3】

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「だけど、店に並ぶまでに、どこかで気付かなかったの? 例えば、本社に来た時に試作品を見るとか、そういう機会はなかったのかな?」 「……そう言えば、最近仕事が来てない。だから、会社にも行ってない」 「なんだって?」  堂上が目を見開く。 「どのくらいの期間?」  光は指を折りつつ記憶を辿る。 「最後の納品確認に行ったのが秋くらいだったから、もう三か月くらい行ってないかも……」 「それだけ間が空いていたら、仕事が暇で仕方なかっただろう?」 「よそからの仕事も、少しはあったし……。でも、言われてみれば、暇だったかも」  仕事があるなしに関わらず、絶えずあれこれと作ったり考えたりしているので、あまり気にしていなかった。けれど、思えば春先の依頼に合わせて用意していたデザインはまだ一つも形になっていない。 「俺、干されてたのかな」  堂上は額に手を当てている。 「このところ僕も忙しくて、すっかり松井くんに任せていたからねぇ……。でも、そうか。そういうことか」  これで少し納得した、と社長の顔になって頷く。  昨シーズンの動きがあまり振るわず、一月の売り上げもぱっとしない。定番商品が堅調なので、全体としての利益はそこまで大きく崩れていない。だが、新商品の動きが悪いことがずっと気になっていたのだと言った。 「今日、ここに来たのも、春からの商品の出来が気になったからなんだよ。でも、光に仕事を出していなかったなら、原因は間違いなくそれだろうね」  堂上がにこりと微笑む。誰もが惑わされる人たらしの顔に戻って、笑みを深くした。  堂上は、切れ者すぎて冷徹なところのある男だ。けれど、この顔からそれを知ることは難しいだろうと光は思った。 「ところで、光。明日は、時間あるかな?」  唐突に聞かれて、「いつでも暇」と答えた。  何しろ干されているので、急ぎの仕事は何もない。  朝一番に本社に来るように言われて了承した。  堂上を残して先に村山の工房を後にし、一日ぶりに自宅マンションに帰る。しかし、壁のスイッチを押しても、なぜか電気が点かなかった。 「なんでだ……?」
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