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そうして僕は、ただの高校生になった。
あたりまえだけれど、志織は入学式に来なかった。西高の講堂で、僕は居るはずのない彼女の姿を探した。なんだか足りないものが常に近くにちらついているかのような、そんな気分がしばらく続いた。
高校生活の忙しさは僕の予想を越えていた。元々僕には過分なレベルの学校だったから、僕は毎日数時間の自習をしなければならなかった。もちろん部活も大変だった。テニスのラケットをただ振るうだけの放課後を何日も過ごした。
僕は現在を生きることで精一杯になっていた。未来のことも、過去のことも、考える余裕はなくなっていった。
週末には図書室へ足を運んだ。僕にとって、もっとも集中のできる学習スペースがそこだった。教科書も参考書も全てそろっていたから、荷物が少なくて済むのもありがたかった。
僕と同じような生徒は何人かいて、その内の一人と仲良くなった。大柄で上品な、二年生の女子だった。彼女は数学に秀でていて、ことあるごとに僕に解法を教えてくれた。「三浦先輩の教え方、すごくわかりやすいですね」と正直な感想を述べると、彼女は少しハニカんで、「小学校の先生になるのが夢ですの」と語った。
二学期の終わりごろ、彼女から告白を受けた。
僕はそれを了承した。
楽しいと思うことは多々あった。
充実していると感じられる瞬間もあった。
どうやら僕は、この多忙な毎日に案外満足しているようだった。
やらなければいけないことがたくさんあれば、思いだすことは少なくて済むのだと知った。
そうして僕は、ただの高校生のまま、二年目の夏を迎えた。
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