メロンだったら良かったのかもしれない

12/29
前へ
/29ページ
次へ
   * 「もう一年半も経っちゃったねえ」  その言葉には再会を喜んでいる空気があった。彼女にはもう表情がなくなっていたから、僕は台詞の響きから感情を読み取るしかなかった。 「ゆーくんはどうしてるの、今」 「普通に高校生やってるよ」 「普通?」  彼女が丸い体を少し転がす。たぶん、首をかしげたつもりなのだと思う。 「普通って、どういうこと?」 「一般的な高校生と同じってことだよ。勉強したり、部活したり、あとは彼女とデートしたり」  最後の言葉を僕はあえて口にした。 「わっ、デート!」  体を揺らして彼女は驚いた。 「そっか、ゆーくんにもついに春がねえ。おめでとー」  無邪気に祝福する志織の姿を見て、僕は少しだけ落胆した。ほんの少しでも残念がってくれたらいいのに。そんなことを考えてしまって、自分がひどく卑しい人間であるような気分になった。 「志織はどうだったのさ。卒業してから、これまで」 「そりゃあ孤独だったよ。たったひとりでがんばったんだよ」  どれだけ頑張れば人がスイカになれるのか、僕には見当もつかない。 「呼んでくれれば良かったのに。僕だって、話相手になるくらいはできたよ」 「ゆーくんには高校があるじゃない。新しい生活に飛び込むのは、きっと、私と同じくらい大変だと思ったんだ。だから、邪魔しちゃいけないかなって」 「そんな遠慮、僕にする必要ないだろ」 「ゆーくんだからこそ遠慮しちゃうんだよ」  僕はとっさに言葉が出なかった。 「……志織、少し大人になったかもな」 「あー。いいこと言うねえ、ゆーくん」  ころりと前転して、彼女は照れたようにえへへと笑った。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4人が本棚に入れています
本棚に追加