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「もう一年半も経っちゃったねえ」
その言葉には再会を喜んでいる空気があった。彼女にはもう表情がなくなっていたから、僕は台詞の響きから感情を読み取るしかなかった。
「ゆーくんはどうしてるの、今」
「普通に高校生やってるよ」
「普通?」
彼女が丸い体を少し転がす。たぶん、首をかしげたつもりなのだと思う。
「普通って、どういうこと?」
「一般的な高校生と同じってことだよ。勉強したり、部活したり、あとは彼女とデートしたり」
最後の言葉を僕はあえて口にした。
「わっ、デート!」
体を揺らして彼女は驚いた。
「そっか、ゆーくんにもついに春がねえ。おめでとー」
無邪気に祝福する志織の姿を見て、僕は少しだけ落胆した。ほんの少しでも残念がってくれたらいいのに。そんなことを考えてしまって、自分がひどく卑しい人間であるような気分になった。
「志織はどうだったのさ。卒業してから、これまで」
「そりゃあ孤独だったよ。たったひとりでがんばったんだよ」
どれだけ頑張れば人がスイカになれるのか、僕には見当もつかない。
「呼んでくれれば良かったのに。僕だって、話相手になるくらいはできたよ」
「ゆーくんには高校があるじゃない。新しい生活に飛び込むのは、きっと、私と同じくらい大変だと思ったんだ。だから、邪魔しちゃいけないかなって」
「そんな遠慮、僕にする必要ないだろ」
「ゆーくんだからこそ遠慮しちゃうんだよ」
僕はとっさに言葉が出なかった。
「……志織、少し大人になったかもな」
「あー。いいこと言うねえ、ゆーくん」
ころりと前転して、彼女は照れたようにえへへと笑った。
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