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スイカの賞味期限は、収穫から二週間程度だという。
それを過ぎると、品質がどんどん劣化していく。
「だからね、早く売ってもらわないといけないの」
「売る? 何を」
僕はタオルケットにくるまりながら、彼女に尋ねる。
特別に冷却されたこの部屋は、常に十度前後に保たれている。薄着の身には少し肌寒いくらいの温度だった。
「私に決まってるじゃない。正規の流通に乗ってないスイカって、大手のスーパーは嫌がるんだよね。特別扱いするわけにもいかないし」
「しゃべって動けるスイカなんて一億出しても買うって人もいそうだけど」
「そういうのは私が嫌なのー」
拗ねたように、その場でくるんと一回転する。緑と黒のシマシマが一瞬だけ溶けあった。
「私は美味しいスイカなの。しゃくしゃくで甘いスイカなの。だから、他のスイカと同じように、誰かに美味しく食べてもらいたいんだよ。驚いてもらいたいわけじゃない」
「なるほどね」
僕は頷いてみせたけれど、本音を言えば、やっぱりよくわからなかった。ただ、志織らしいなという感覚だけが漠然とあった。
「だからね、そういう気持ちをわかってくれるような、個人経営の八百屋さんがいいと思うんだ。でもそういうお店って、もうあんまりなくなっちゃってて」
「まあ、そうだろうなあ」
「ゆーくん、心当たりある?」
「ないよ」
僕は短く答えた。
たとえ心当たりがあったとしても、同じ答えを返すような気がした。
「そっかー。じゃあ、もう少し遠くの方も探してみるよ。私がしわしわになっちゃう前に」
「しわしわになるの? スイカが」
「そうだよー。色も落ちちゃうし。そういうのって、女の子には許せないよね。やっぱり若くてつやつやなうちに食べてもらわないと。人間だってそうでしょ?」
その言葉に初老の志織を想像しそうになって、僕は慌てて頭を振った。
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