メロンだったら良かったのかもしれない

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 僕は毎日、志織の部屋に通った。残された時間はもう多くなかった。自習を放棄し、部活を放棄した。恋人からのデートの誘いも、用事があると断った。そんなことは初めてだった。不審に思った先輩から電話がかかってきたのは、夜の十一時過ぎだった。 「ようやく出てくれたわね、祐介さん」 「すみません、いろいろ忙しくて」 「女?」 「……そういうことじゃ、ないです」  一瞬だけ反応が遅れたのを彼女は聞き逃さなかった。 「やっぱり浮気してるんですのね」 「違いますって!」 「ならどういう用事だったのか言ってごらんなさい」  僕は電話口に入らないようにため息をついた。少し思案して、正直に全て話すことにした。「……適当な嘘言ってません? 祐介さん」 「本当に嘘なら、こんな突拍子もない話になんてしませんよ」 「それはそうですけれど……」  彼女はまだ納得していないようで、ぶつぶつと何事か呟いている。  なあなあで終わらせるのは、どうやら無理らしい。 「わかりました、先輩。じゃあ、彼女と会ってください」 「え?」 「きちんと紹介します、志織のこと」  丸い志織の姿を見て、先輩はやっぱり息を飲んだ。だがそれは一瞬のことだった。気を取りなおした彼女は、丸々としたスイカを仁王立ちでにらみつけた。 「あなたが志織さん?」 「はい。ゆーくんの幼なじみです」  その言葉に、先輩の眉がぴくりと動く。 「へえ、『ゆーくん』ですか」 「はい。ゆーくんとはずっと仲良くしてるんです」 「それは、それは」  最悪の居心地だった。  仲の良い女性同士の舌戦なんて、見たいわけがない。  けれどもちろん、「後はどうぞお二人で」なんて言えるはずもなかった。
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