メロンだったら良かったのかもしれない

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「祐介さんって、本当に優柔不断でして。デートでもイライラしっぱなしですわ」 「だよねー。三歳のころからそうだよ」 「まあ! 三つ子の魂なんとやら、ですわね」  二人は声をそろえて笑いあう。  ううむ。  僕は心の中で唸った。  まさか、こんなにあっさり意気投合するなんて。  女子という生き物は、やっぱりよくわからない。 「祐介さんの子供時代のこと、聞かせてくれません?」 「いいよー。面白いエピソード、いっぱいだからね」  帰路に就いたのは、日が変わる直前だった。  街灯が頼りなく灯るこの路地は、夜に歩くと非常に怖い。それを知っていてなお、先輩は志織とのおしゃべりを選んだのだった。 「志織さん、本当に良い子でしたわね」 「そうですか?」 「嬉しそうな顔してますわよ、祐介さん」  指摘され、僕は慌てて顔を手でおおった。そんな行為でごまかせるわけもなかった。 「良いじゃありませんの。大切な幼なじみなのでしょう」 「……はい」僕は降参した。「そうです。僕にとって、志織は誰より大切な幼なじみでした」 「過去形?」 「そうですよ。今一番大切な人は、あなたです」 「本当かしら」 「本当ですよ」 「あのね、祐介さん」  先輩はぐっと顔を近づけた。見たことのない真剣な表情をしていた。 「自分の気持ちに嘘をつくのは最大の罪ですわよ」 「だから、嘘じゃありませんって」 「よくよく考えてみるべきです。考えて考えて考え抜いて、その結果、あなたの気持ちが志織さんの方に向いていたのだとしたら、それをきちんと彼女に伝えなさい。私のことはかまいませんから」 「ですが、先輩」  僕は戸惑ったまま言う。 「志織はもうスイカなんですよ」 「そんなことは関係ないでしょうが!」  彼女の激しい叱咤に、僕は何も返せなかった。 「きっとね、祐介さん。志織さんは、あなたのその言葉をずっと待ってる。三歳のころから今この瞬間まで、ずっとずっと待ち続けているんですのよ」 「そんな……」僕は強く首を振った。「そんなこと、あるわけがない」 「祐介さんがそう思うのも無理はありません。おそらく、彼女自身も気づいてないことでしょう。ですが、祐介さん。私にははっきりとわかるんですのよ」  そこで先輩はふっと微笑んだ。なんだか寂しそうな微笑みに見えた。 「私は、祐介さんの彼女ですから」
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