メロンだったら良かったのかもしれない

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 彼の悩みは、要約すれば、自分の娘が何を考えているのかよくわからないという、どこにでも転がっているようなものだった。 「祐介君は、志織と仲良くしてくれているね」 「ええ、まあ」  してくれている、という言い方に内心イラッとしながら、僕は適当に答える。 「君ならわかると思うが、志織は少し変わったところがあるだろう」 「そうですね」 「不思議なことを口走ったり、見えないものを見ようとしたり」 「よくあります」 「あれで頭は良い方だとは思うのだが」  この台詞は親馬鹿ではない。実際、彼女の成績は学年でも一桁に入る。受験をすれば、地区のトップ校も十分に狙えるはずだ。 「そんな娘が、スイカになると言いだした」 「知ってます」 「高校にも行かないと言ってきかない」 「知ってます」 「こんな話は退屈かな」 「……いえ、別に」  僕はテーブルに視線を落とした。彼は「いや、独り言だ。忘れてくれ」と笑いもせずに言う。 「勘違いしないで欲しいのだが」  話しながら、彼はホットコーヒーにティースプーンを入れ、くるくるとかき回している。この状況が落ち着かないのかもしれない。 「別に、志織に反対したいわけではないんだ。娘の夢なのだから、父として、それは応援したいと思っている」  僕はおもむろに顔を上げた。ひさしぶりに、彼の顔を正面から見た。 「本気ですか」 「ああ。ひとしきり悩みはしただがね。結局は、彼女のやりたいようにやらせてやるのが一番なんだ。ただし、一年間だけという条件を付けた。卒業したら、一年かけて、スイカになれるよう本気で努力しなさい。そして、駄目だったそのときは、受験をして高校に行きなさい、と。娘は納得してくれたよ」 「……本気なんですね」 「意外かな」  僕は返事をしなかった。
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