メロンだったら良かったのかもしれない

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「ただね、祐介君。それでもやはり気にはなるんだ。どうして志織はスイカになりたいと願うようになったのか、その理由が」  コーヒーを回す手が止まった。 「祐介君は、何か知らないかな」  なるほど、と僕は思った。彼はきっと、この質問のために今日ここを訪れたのだ。 「……残念ですが」本心から言った。「僕も、全く知りません。そのことについて、志織は何も教えてはくれません」 「そうか……」  彼は少しだけ落胆の色を見せた。 「祐介君なら、あるいはと思ったのだが」 「家族に教えていないものを、僕に教えるわけがありません」 「そんなことはない。志織からすれば、私などより君の方がよほど大切な存在だよ」 「まさか。彼女にとって、僕はただの幼なじみです」 「そうか? まあ、君がそう言うのなら、そうなのかもしれない」  彼はカップを手に取り、散々かき混ぜてぬるくなったコーヒーをくっと一口飲んだ。 「だが、君は違うだろう?」  その言葉に僕は目をそらした。 「……余計なお世話です」 「はは、すまない」  そして彼は、今日初めての笑顔を見せた。
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