第1章

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自ずと零れる小さな溜め息。 「まさかおまえまで僕がとって食おうとしてるって思ってるわけ?」 そりゃ学生時代は 気の迷いで一時期こいつに熱を上げたこともあった。 だけど出会った当初から筋金入りのノンケだと分かっていたし。 今さら――。 「違う違う。そんなんじゃないよ。本当に朝から出かける約束してんだ」 聞けば湯河原のひなびた温泉宿に1泊2日だという。 25歳、結婚前のカップルにとっては理想的な誕生日かもしれない。 「ふうん」 そんなことまで説明されてよけい惨めな気分になる。 「悪いな。ここは奢るから」 悪い癖だ。 マサムネは何の気なく僕の肩を撫で下ろす。 「いいよ――付き合わせたんだ、僕が出す」 その優しさが一人身の心に一層堪える事など 知りもしないで――。
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