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「タクヤ、タクシー乗ってけって」
店の外に出ると
まだ10月の半ばだと言うのに凍えるほど冷えていた。
「いい。歩きたいんだ」
「なら気をつけて帰れよ」
友人の好意を断り白い息を吐きながら
僕は危うい一歩を踏み出す。
新宿の雑踏を抜け裏道へ。
酔い覚ましのつもりだった。
さっきまで小雨が降っていたのか
湿り気を帯びた黒いアスファルトがてらてらと光っている。
何もかももう十分――。
それでも家に帰る気にはならず
僕はあてもなく歩き続けた。
「ん……?」
やがて暗いビルの一角。
風変りなネオンの灯る店の扉が開いて
「うわっ……!」
若い男が一人
ひどく泣きながら僕の目の前に飛び出してきた。
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