第1章

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やがて上を向いたまま捕らわれた少年の 細い指先が微かに痙攣する。 (あれって……マズいんじゃ……) ぶらんとぶら下がったまま 身動きすらしなくなった彼を見てさすがに不安になった。 寒さのせいだけじゃない。 歯がカチカチ鳴って唇が震える。 看板の角を握る手に自ずと力が籠った。 教室内での諍いを止めるように もっともらしく飛び出していけばいいのかもしれない。 (でも何て言って……) 僕が逡巡している間に ほとんど宙に浮いた少年の身体はぶるぶると何度か震えた。 ほどなくして (え……?) 光る水滴が彼の両足を伝って その足元に小さな水たまりを作った。 漏らしたんだ――。
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