あの日の海

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あの日の海

 部屋のなかで聞こえるのは、お互いの荒い息遣いと、体の一部がくっついたり離れたりする音だけだった。あとたまに、なおの悲鳴じみた、気持ちよさそうな声。  なおが上になって、ゆっくり腰を上下させている。その緩慢な動きが、じわじわとした快感を俺に与えてくれる。頃合いを見て、下から腰を打ち付けると、なおの喘ぎが一際甘くなった。 「なお、気持ちいい?」 「きもちい……」  なおの目がとろんとしている。半開きの口からは、忙しない呼吸音が漏れてくる。茶色みのある髪は汗で湿っている。  断続的に激しく突き上げてやると、なおの体がびくびくと痙攣した。なかもぎゅっと締まって、俺が先にイきそうになる。慌てて動きを止めた。  前髪の毛先に溜まった汗が、激しい動きでなおの睫毛に落ちた。なおの長い睫毛は、そのまま汗の玉の受け皿になった。  もう一突きすると、睫毛から水滴が頬に落ちて、弾ける。  綺麗だな――そう思うと同時に、既視感を覚えた。まえにもこうやって、なおの睫毛の長さに胸がざわついたことがあった。 「あ、かずま。もうイきたい」  なおの眉が苦しそうに寄せられている。前の性器は愛撫を加えていないのに完全に勃起していた。     
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