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静まりきった家。まるで長年放置された廃屋のようだ。冷たい廊下は靴下を履いていても骨にしみるほど冷たい。
突き当りのドアが開いている。僕は不安を胸に抱きながらひたすらそのドアを目指した。
息をひそめ、身を傾けて部屋の中をそっと覗く。
薄暗い部屋。その隅に小さな塊を見つけた。クッタリ壁にもたれている君だった。
「テルキ」
僕の呼びかけにテルキの顔がゆっくりと振り向く。いつもキラキラと光っていた黒い瞳は何も映していない。めいっぱいの笑顔は頬の神経を全て切断されてしまったみたいに動かない。君の表情は永遠の放浪を課せられ疲れ果てた旅人のような完全なる無。
「……死んじゃった」
小さな小さな声がポツリと零れ落ちた。たった一言。
なぜ無表情なの? なぜ涙を流さないの? なぜ絶叫しないの?
なぜ笑顔を見せない?
君の感情はどこに行ってしまったの?
テルキはこっちを見てるけど、テルキの瞳は僕を映していない。
何もないーー
いつも周りを照らしていた以前の君はもうどこにもいない。
力のないその頬へ、手を持ち上げる。視界に入った僕の指先はフルフルと震えていた。
空っぽのテルキ。
窓から入るわずかな光で見える抜け殻。
「テル。凄くキレイだ」
大丈夫。僕がそばにいてあげる。
冷たい頬にそっと触れた。
完結
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