第1章

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『あの……調べていただきたいことがあるんですけど』  その声に思わず目を見開く。なぜならそれが滅多に聞けない言葉だったからだ。 「ご、ご依頼……ですか?」 『……はい。でも、あの……ちゃんと調べていただけるんですよね?』  驚きのあまり言いよどんでしまったせいか、どこか警戒するような反応が聞こえて焦る。 「も、もちろんです。ご相談は無料でお受けしてますので、あの、不安でしたら面談をさせていただいてから、実際に調査を行うかどうかを決めてくださればよろしいかと……思います」  雇い主に教えられたように、『無料』という言葉を強調して、なるべく相手に安心感を与えるように促す。するとすぐに了承の声が聞こえて、内心で安堵の息を吐いた。 「それでは……ご都合のよろしいお日にちはございますか?」  言いながら、机の上にあったメモを手繰り寄せ、ボールペンを用意する。 『できるだけ早く……、日時はそちらにお任せします』 「かしこまりました。確認して参りますので、少々お待ちください」  電話を保留状態にして部屋の奥へ向かった。 「椹木(さわらぎ)さん、いるんでしょ! 依頼ですよ、依頼!」  大声と共に木製の扉を叩く。中からは唸るような声が聞こえた。 「急ぎみたいなんで、面談今日の午後一でも大丈夫ですよね?」  中から反応はない。 「ちょっと、椹木さんってば! 起きてくださいよ! 早く!」  更に強く扉を叩いていると、ドアノブが回り扉が開かれる。それにほっとしたのも束の間――。 「っっっ! なんで全裸なんですか!」  ……絶叫した。
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