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「いや、でも……事務所がカラになるし……」
「お前がいない時はしょっちゅうだろうが。それにほらあれ、一昨日だかに転送サービス申し込んでたろ? ちょうどいいじゃねえか」
そうだった。以前からせっついていたのだが、一昨日、久々に出勤するやいなや、電話が鳴りっぱなしになっていたため、いい加減電話の転送サービスに申し込めと椹木さんにキレたのだ。一定コール電話を取らずにいると、自動的に携帯電話にその着信が転送されるというシステム。事務所の着信に気づかなくても、さすがに枕元のスマホが鳴りたくっていればこの人も起きるだろうと。俺がここに来る前は一人でやっていたのに、その機能を備えていなかったことに驚いたのだが。本人曰く『調査中に鳴ってもどうせ出れないから』らしいが。まともな依頼が来ていたのかすら怪しいのによく言う。ただ申し込みが面倒なだけに違いなかった。
「二人で尾行してりゃ、電話鳴っても出れんだろ?」
サービスは申し込みから五日ほどで使用できるようになるとのことだ。来週の水曜日までには充分間に合う。
「何事も挑戦だって」
椹木さんは軽く言ってニカっと笑った。
最初にこの事務所に引き入れられた経緯といい、この男はムチャぶりが多すぎる。それでも、俺に選択権はないのだった。
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