第3章

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「うわ、汚なっ」  十畳ほどのスペースには脱ぎ散らかした服や本や書類が散乱していた。 「あんまりじっくり見んなよ、えっちぃ」  背後でおどける男を遮るように扉を閉める。セミダブルのベッドが起き抜けのままで、なぜか妙に気恥ずかしい。ベッドの周辺には意外にも本が大量に積んである。気になってタイトルを見てみると、ほとんどが時代小説だった。文庫本はサイドテーブルの上にも積み重なり、その隙間には吸い殻が大量にねじ込まれた大きめの灰皿が置いてある。 「寝タバコ気をつけろって注意しないと……」  呟きながら例のブツを袋から取り出す。しかし、着替えるのは思った以上に勇気がいって、出したはいいが悩んでしまう。椹木さんの指示なら、従うしかないのはわかっているが……。着ていた服を脱いでからまたしばらく葛藤して、結局俺は過去の自分を守るために、一時の恥を選ぶことにした。当たり前だが普段着ているものとは勝手が違って、着用するのにも時間がかかる。やっとのことで着替え終えても、怖くて外に出れなかった。 「おい、深見まだかよ?」  外からせっつかれて覚悟を決めた。……笑いたければ笑えばいい。どうせそのためにこんなことを言い出したに決まっている。勢いよく扉を開けると、椹木さんが咥え煙草で腕組みをしていた。
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