第3章

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「お? ……おお……?」  俺の姿を目にした途端、椹木さんの顔から表情が消えた。真顔だ。笑いも出ないほどひどい有り様なのだろうか。鏡を見ていないのでわからなかった。 「すげぇな、おい。ふつうに女の子にしか見えねえな」 「……は?」  白い半袖のカットソーは胸元にごてごてとフリルの飾りがついていて、平らな胸をごまかしていた。肩の部分もふわっとして丸みがあり、貧相な体つきではあるけど男特有の骨格をごまかしてくれるデザインのような気がする。下はネイビーのキュロットパンツ。その下にはスパッツ(?)と言っていいのかなんなのか、くるぶしから下がない黒いタイツのようなものを履いているせいで女性っぽい脚に見える気がする。足元はゴツゴツと夏らしいビジューがついたサンダル。極めつけは茶髪のさらさらロングヘアのウィッグだ。 「いやー、アイカちゃんに頼んだかいがあったな」 「アイカちゃん? これアイカさんのなんですか?」 「ああ。昨日、彼女を店まで迎えにいってしばらく部屋にいただろ? そん時にお願いしたら喜んで貸してくれたんだよ」  椹木さんの説明に俺は思わず黙り込んだ。アイカさんのストーカー対策の件を忘れていたわけではなかったが、あえて忘れたふりをしていた。考えるとなんだか嫌な気分になるからだ。  アイカさんは少なからず椹木さんに特別な感情を抱いている。そんな彼女がその相手と夜中に二人きりでいて、何も起きないのだろうか? ……しかもアイカさんは椹木さんの好きな巨乳。身内のそういう……性生活や下半身事情を知りたくないのと同じような心境なのかもしれない。そう考えて、自然に椹木さんを『身内』に置き換えられることに少しびっくりした。 「なんだよ、無理矢理そんなカッコさせられて怒ってんのか?」 「……別に」  不機嫌丸出しの声で答えると、椹木さんが苦笑をこぼす。
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