第3章

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「ちょ……っ、なに……」 「しーっ」  突然のことに混乱する。状況がわからないまま……思い切り腰を抱き寄せられた。 「っ!」 「深見、お前腰細えなあ。今度肉食わしてやるよ」  万年金欠のくせに。いつもならそう返しただろうが、そんな余裕があるわけなかった。身体の全部が椹木さんの腕の中に閉じ込められて、熱くて、苦しい。男の体温、微かに香るタバコのにおい。半ばパニック状態の中で、次に椹木さんが取った行動に、頭の中が真っ白になった。 「暴れんなよ?」  聞きなれたはずの男の声が妙に艶を帯びている気がした。そのことに胸が騒いで、うまく息ができない。これ以上はないほど近い距離で椹木さんと目が合い……そのまま唇を塞がれて、俺の思考は完全に停止した。 「ん、んぅ……」  出したくもないのに勝手に変な声が出た。上唇を食まれ、侵入した椹木さんが俺の舌をさらう。いやらしい水音が立って、脳みそが沸騰しそうだった。 「ふ……ぁ」  男の行為は徐々にエスカレートし、艶かしい口づけを続行したまま、キュロットパンツの裾から手を入れて、あろうことか俺の尻を揉みしだいてきた。知らないうちに腿の間に膝を割入れられていて、時折それが内腿をこすってくる。 「ん、んんっ……ゃだ……」  少しだけ男の唇が離れた隙に訴えると、なぜか椹木さんは吐息で笑った。 「……お前は可愛いな」  耳許で囁かれて、一気に頭に血がのぼる。無精髭のない顔が新鮮だった。精悍といえる顔つきからは、自分とは掛け離れた男の色香を感じる。……もう気が遠くなりそうだった。 「行ったか?」  そんな矢先、椹木さんの冷静な声が聞こえた。 「……ぅえ?」  荒い息を吐く合間に、間抜けな声で訊ねた。
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