第3章

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 いつも歩く商店街はすでにどの店舗もシャッターを下ろしている。時刻は夜の十時になるところだった。  対象者、山本博紀は、女性と別れたあと店舗に戻って残務をし、二十一時前に退社した。そのあとは自宅マンションへ直帰。俺が三回ほどナンパにあったこと以外はなんの滞りもなく調査を終えることができた。  まさか自分がこんな格好をして尾行をするなんて。確かに今起きたことなのに、未だに信じられない。現実味が欠けているのに、妙な達成感があって……笑ってしまう。 「深見?」  照明の落とされた商店街の入口をのろのろと歩き出したところで、背後から声がかかる。振り向くとそこには、すでにネクタイを外した状態の椹木さんがいた。 「メール見たけど、大丈夫だったか?」 「はい、どうにか」  山本が自宅に戻ったのを確認した直後、椹木さんの携帯に簡単な報告を送ってあった。 「そうか、よくやったな」  椹木さんが嬉しそうな顔をして……俺はなんだか照れくさく、むず痒い気分に包まれる。 「そっちはどうだったんですか?」 「抜かりなしだ。きちんとご自宅まで見届けさせてもらったよ」  椹木さんはそう言って得意げな顔で笑う。 「よし、じゃあ帰るか」 「はい……って、え?」  返事をすると、突然椹木さんが俺に背を向け、その場に屈んだ。 「なに……」 「なにって、おぶってやるよ。足、痛えんだろ? さっき引きずってた」  見られていたのか。 「ほら、深見」  躊躇っていると再び促され、俺は少し迷ってからその背に体重を預けた。
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