第3章

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 誰かにおぶわれるのなんて、いつ以来だろう。少なくとも自分の記憶上ではおんぶされた思い出はないのに、懐かしい気分になるから、やっぱり昔すぎて忘れているだけなのかもしれない。 「こんなの、誰かに見られたら恥ずかしいんですけど」 「全然人通りねえし平気だろ」  確かに商店街は猫が一匹横切っただけで、人っ子一人見当たらない。俺はゆったりと歩き出した椹木さんの背中から落ちないよう、遠慮がちに首に腕を回した。  日中の活気が嘘のように、静かで暗い商店街を進んでいると、ふと店先に貼り付けられていたポスターが目に入った。 「夏祭りとかあるんですね、ここ」 「ん? ああ、なんか毎年やってるぞ。商店街中総出でよ。今年は再来週か……行くか?」  椹木さんの問い掛けに、俺は「行かない」と短く答えた。 「なんだよノリ悪ぃなあ」 「ノリとかそういうの期待しないでください」  俺の返答に椹木さんが笑ったのが背中越しに伝わる。 「がんばったご褒美に好きなモン買ってやるぞ? かき氷でもたこ焼きでも」 「ずいぶん安上がりですね」 「……可愛くねえ」  椹木さんは一旦立ち止まって俺を担ぎ直す。  椹木さんが再び歩き始めた時、俺はためらいがちに切り出した。 「……あんまり好きじゃないんです、そういうの」 「ん?」 「お祭りとか」 「なんだ、嫌な思い出でもあんのか?」 「……逆です。思い出がないからキライなんです」  懐かしい気分にさせるこの体勢のせいか、昔の記憶が口をついて出る。
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