第3章

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「俺も小学生の頃は人並みに子供らしかったんで、夏祭りというか夜店はものすごく魅力的で。でも結局、一度も行ったことないまま」  どうして? とは訊かず、椹木さんは無言で続きを促してくれる。 「兄が……中学に上がる時点からスポーツ特待で入学するようなできた人で、親はそっちにしか興味がない感じっていうか」 「へえ。なんのスポーツ」 「野球」 「確か今二十四って言ってたか……まだやってんのか?」 「一応プロになったけど。でも育成枠だし二軍の試合にしか出てない」 「へえ、すげえな! そりゃあマジもんだ。どこのチーム?」 「京浜レオパルズ」 「おっ、昨年の優勝チームじゃねえか、やるなあ」  やるなあ、と言われても、自分はどう反応していいのかわからない。だけど、そう。本当に『マジもん』なのだ。だから兄の幼少期から、両親が目の色を変えて手間も時間も金も掛けてきたのは当然で、そんなことは俺にだってわかっている。  小学校に上がる前までは、俺も兄の練習や試合に連れていかれたが、子供というのは、実際にやるならまだしも、長時間に渡る野球の観戦には向いていない。その上、小学校に上がってすぐの頃、観戦中に日射病になって高熱を出してしまったこともあり、以来試合のたびに俺は自宅で留守番をしていた。 「俺の家の近所でも夏祭りがあるんですよ、毎年。でもその日は毎回兄が遠征で。俺はいつも、帰ってきたら連れていってやるから大人しく留守番してろって言いつけられて」  だけどいつも結局間に合わないのだ。
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