第3章

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 夕方になり、家の中からでも感じられるほどに外がざわつき始める。祭囃子がかすかに聞こえていて、早く行きたくて仕方なかった。けれど一人では絶対に行くなと言いつけられていたから、今か今かと帰りを待っていた。 「でも全然帰ってこなくて、結局帰宅した時には祭りは終わってるんだ」  両親は大泣きする自分に謝罪をしてくれるものの、その日の試合で活躍した兄の話題に夢中なのだ。そんな夏が二、三度繰り返されて、俺は子供ながらに諦めを覚えた。覚えざるを得なかった。宙ぶらりんの約束が増えるたび、悔しくて悲しくて。どうせ叶わないなら最初から期待しない方がマシなのだと悟った。  兄ばかりにかまけていた両親を、両親を独り占めしていた兄を恨んでいるわけではない。ただ、小、中学校までの長期間、それも多感な時期に抱いていた疎外感や孤独感は厄介で、生まれた溝はちょっとやそっとで埋められるものではない。決定的に仲が悪いわけではないが、絶対に縮まらない距離がある。それが自分と家族の関係だ。  そこまで話して、不意に恥ずかしくなった。子供の頃の恨み言を今言ったところでどうにもならないし、そんなことをいつまでも覚えているなんて、それこそガキくさいことこの上ない。 「今の話、忘れてください」  居たたまれずそう言ったら、「やだね」と即答される。 「なんでっ……」 「忘れてやらねえよ」  椹木さんは俺のセリフを遮り、おどけたように背中の俺を揺さぶってから再び歩き始めた。
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