第3章

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 本気で忘れて欲しいはずなのに、椹木さんの言葉を嬉しいと思うのはどうしてなのだろう。自分のことなのに理解不能だ。 「ちょっと待ってろよ」  事務所のソファの上まで運ばれると、椹木さんは奥の部屋へと消えていった。  俺は恐るおそるサンダルを脱いでみる。予想はしていたものの、足の裏は靴擦れがひどく、水膨れが潰れていた。甲の部分は飾りに擦れ続けていたせいで出血している。慣れないヒールでふくらはぎもパンパンだった。女子はよくこんなものを平然と履いていられるなと感心してしまう。  足をさすっていると、椹木さんが手に救急箱を持って戻ってきた。 「ほら、見せてみろ」  ローテーブルを横によけ、俺の前に跪く。椹木さんの腿の上に載せるように足を取られた。 「うわ、ひでえなこりゃ。痛かったろ?」 「ごめん……借り物なのに汚しちゃって」 「あー、大丈夫だろ。捨てる予定のモンって言ってたし。なんだったら俺が新しいの買ってアイカちゃんに渡しとくから気にすんな」  それを聞いて、モヤっとしたものが胸の中に広がった。アイカさんにサンダルを贈る椹木さん。いや、『俺は今時の女の子の趣味なんてわかんねえし、一緒に店に行ってなんか買ってやるよ』なんて言うのかもしれない。アイカさんはとても喜んで、デートよろしく二人で……そこまで妄想して、重い息を吐いた。デートどころか、しばらくの間、夜には部屋で二人きりだ。
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