第3章

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「あのさ……アイカさんの部屋で、……待ってる時、その……何してるの?」  口からこぼれてしまった問いは、訊くんじゃなかったと後悔しても、なかったことにはできなくて、俺にできるのは焦ったような気まずさに顔をしかめることだけだった。  アイカさんのストーカー対策に乗り出してすでに四日。そのうち二度、椹木さんは深夜にアイカさんを自宅へ送り届け、恋人だと印象づけるために部屋に滞在しているはずだ。俺はその時間には帰宅していて、椹木さんがどれくらいの時間アイカさんと一緒にいるのかも知らない。 「何って……なんだ、深見。お前、どんなこと想像してんだ? ん?」 「だってアイカさん……」  絶対、椹木さんのこと好きだろ? 今度はすべてを言い切る前に唇を引き結んだ。 「そりゃあ若い女の子の部屋ってのは、なんとも言えない気分にはなるが、仕事で入ってるんだぞ? せいぜい茶ぁ飲んで世間話だよ」  呆れたように告げられて、バツの悪い気分になる。そのまま黙っていると、椹木さんの手のひらが俺の膝に添えられた。 「なあ、深見。お前何を想像したんだ? 言ってみろよ」 「何って……」 「もしかして……こういうことか?」 「……っ」  不意に、スパッツの裾に椹木さんの指が侵入する。指は裾を摘むと、そのままバナナの皮でも剥くように膝へと布地をまくりあげた。 「お前、足ツルツルだな」  さすがにツルツルはないだろ。ボーボーとはいかないが俺だって毛くらい生えている。そんな言葉が出る前に、柔らかいタッチでふくらはぎを撫であげられて、「んんっ」と妙な声を出してしまった。慌てて両手で口を押さえると、椹木さんに笑われた。 「へえ、深見がこんなに敏感だとは知らなかったなァ」  語尾に変なイントネーションをつける椹木さんに、嫌な予感がわいてくる。 「ひっ、なに……やめ……ぁ」  椹木さんは俺の足を持ち上げると、剥き出しの部分にあろうことか舌を這わせた。信じられない光景に、俺はこれ以上ないほど目を見開いて、鋭く息を吸い込んだ。
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