第4章

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 翌日の土曜日。午後三時に依頼主である山本美幸が来所した。即日の報告となったのは本人たっての希望だ。そのために俺は、昨夜から今朝にかけ、大急ぎで報告書や資料を提出形態に編集した。 「そう……ですか」  事務所を訪れた山本さんは、報告書を受け取って椹木さんの説明を受けるとそう呟いた。その表情からは彼女の心境を読み取ることはできない。ただ満足しているようには見えなかった。 「ここからは聞き流していただければ結構です」  黙りこくった山本さんに椹木さんはそう切り出した。 「これは私見ですが、もしかしたらご主人はあなたの秘密に気付いてらっしゃるのかもしれません」  俺は向かっていたPCから思わず顔を上げた。 秘密? 椹木さんは一体なんの話をしているのか。 「……なんの話よ」  尖った声がした。椹木さんは何も答えない。 「私が何か後ろ暗いことでもしているみたいじゃない!」  山本さんは対面している椹木さんに向かってヒステリックにそう叫んだ。 「心当たりがないのでしたら、大変失礼致しました」  着座のまま椹木さんが頭を下げる。山本さんは憤慨したように立ち上がると、テーブルの上に広げていた資料を掻き集めて出口へと向かう。それを見て椹木さんも俺も見送りのために立ち上がった。彼女はずかずかと扉の前まで進むと、不意に立ち止まる。 「どうしてよ……」  こちらに背を向けたままのそれは、さっきとは打って変わり涙声のように聞こえた。 「それじゃあどうしてあの人は何も言わないの?」  椹木さんを振り返った彼女は、今にも泣きそうな顔をしていた。
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