第4章

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「問い詰めて、責めればいいじゃない。怒ってなじれば……」  綺麗な彼女の顔が歪む。 「それをしたくはなかったから、離婚を申し出られたのではないですかね」  椹木さんの静かな声に、彼女の息を呑む音が聞こえた。 「これは一探偵としてではなく、一人の中年男の戯言として聞いてもらえれば幸いですが……」  椹木さんはゆっくりと歩いて山本さんの前まで移動した。 「ご主人からはあなたへの深い愛情を感じました。そして負い目、遠慮、……諦めです」  怪訝な顔つきの山本さんに、椹木さんは続けた。 「あなたを幸せにしたい。だけど年齢差や……してあげたいことと現状との違いに引け目を感じる。別の相手がそれを叶えられるのなら、その方がいいんじゃないかと思ってらっしゃるのではないでしょうか」 「なによ……それ」 「愛情にも色々な形があります。それがどんな形なのかは結局当事者にしかわかりません」  優しくも厳しい、諭すような口調だった。山本博紀の選んだ答え。それは美幸さんへの究極の愛情なのか、それとも、不甲斐ない自分から逃げたのか。 「私がごちゃごちゃ言ったところで、それは推測に過ぎません。調査を重ねてもそれは同じです。本当の意味での『真実』を得られるのはあなたしかいませんよ」 「でも私は……」  痛みをこらえるように目を閉じ、左右に首を振る彼女の腕に、そっと励ますように椹木さんが軽く触れ、そして笑った。 「時には過ちを犯してしまうことだってあるだろうよ。でも命さえありゃあ何度だってやり直せる。自分が間違ってたって気づいたなら、次は間違わないようにすりゃあいい。そしたら過ちだってきっと立派な成長の糧になって、これからっつーのはいくらでも広がる」  目を開けた山本さんに向かって、椹木さんはガッツポーズを見せた。 「がんばれ、応援してるよ」  山本さんは顔を俯けると肩を震わせ始めた。
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