第4章

8/13
前へ
/100ページ
次へ
「たまには飲みにでも行くか」  山本さんが帰ってしばらく経ったあと、椹木さんが唐突に俺を誘ってきた。  連れていかれたのは駅前にある居酒屋だ。今までも二、三度椹木さんに連れてきてもらったことがある。洗練された感じはまったくないが、出てくる料理は美味しい。店の店長は椹木さんの顔を見ると嬉しそうな笑顔を浮かべ、奥のテーブル席に案内してくれた。 向かい合わせに座ると、「食いたいモン頼めよ」とメニューを手渡されるが、あまり食欲はなかった。いつまで経ってもメニューを眺めるだけの俺に、結局椹木さんが適当に料理を選んだ。  こうして食事に誘ってくれたのは、山本さんが帰ったあと、あからさまに下降した俺のテンションを気にしてのことだというのはわかっていた。……そういう人だ。 「気になるか? 山本さんたちが」  椹木さんの質問に、俺はすぐには答えられなかった。半分正解で、半分ハズレだったから。気にはなっている、……だけど今俺の心の中で引っかかっているのは、それとは違う事柄の方が比重が大きい。しかしそれを素直に口にするのは抵抗があって、頷いて見せた。 「めずらしい、つーかちょっと変わったか?」 「え?」 「お前、ウチに来てすぐン時は興味なかったろ、人のことなんてよ」  言われて、確かにそうかもしれないと思った。自分以外はどうでもいいと思っていたし、どうなろうと関係ないと思っていた。ちっぽけなことで簡単に人を頼る人間の多さに呆れていたかもしれない。 「別に……まともな依頼って初めてだったし、調査で直接関わったから、ちょっと引っかかってるだけです」  我ながら言い訳めいていると思ったけど、椹木さんは特に何も言わなかった。
/100ページ

最初のコメントを投稿しよう!

852人が本棚に入れています
本棚に追加