第1章

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 自分がこういう形で携わるまで、探偵という職業について深く考えたこともなかったが、以前からあったのは『本当に職業として成立するのか?』という疑問だ。時折見掛けるその手の広告はあからさまに胡散臭いし、本やテレビで見るように、名探偵が人並み外れた推理力で難事件を見事解決、なんて展開があるわけがない。しかし、意外なことに、俺がアルバイトをするようになったこの三ヶ月の間、事務所への依頼はそれなりに来ていた。……とは言ってもそのほとんどが『探偵』というより『何でも屋』と名乗った方がいいような内容ばかりだった。買い物代行、遺品の整理、新規オープンのパチンコ屋の入場券の入手。ここは本当に探偵事務所かと疑いたくなるような内容のオンパレードだったが、ここの主は基本的になんでも受けてしまう。内容はどうであれ依頼が引きも切らないのは、椹木さんの人徳なのかもしれない。この男はやたらめったら顔が広く、彼を頼ってたくさんの人が頼みごとをしてくる。仕事があるのはいいのだが、どれも格安報酬のため、儲けが少なすぎる。現在、この事務所の経理を担当する身としては、頭の痛い問題だ。そんな中、まともな依頼はありがたいことこの上ない。  ホットの倍の分量でコーヒーを淹れると、氷をいっぱいに入れたグラスにそれを注ぐ。一つはブラック。もう一つにはミルクポーションとシロップを二つずつ足した。
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