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椹木さんが戻ったのは電話をしてから一時間ほどが経ってからだった。
「深見っ」
息を切らし、汗だくの男は、部屋の有様に驚愕の表情を浮かべた。
「……あ、お帰りなさい」
俺はよろよろと扉の前で立ち上がった。
「ごめん、片付けた方がいいのか通報した方がいいのかわからなくて……」
ガラスを踏み越えて椹木さんが近づいてくる。
「あと、犯人追った方がよかったかもしれないけど、俺なんにもできなくて……」
ごめん、という響きは、椹木さんの胸の中に吸い込まれた。汗臭い。だけどとても安心できるニオイだ。
「すまん。怖かったな」
ぎゅっと抱き締められて息を止めた。この腕に守られている、もう大丈夫なのだと思ったら、今更身体が震えだして、自分でびっくりした。
「もう大丈夫だからな」
何度も頭を撫でられた。無意識に椹木さんの背に手を回すと、汗でぐっしょりと濡れていた。必死になって戻ってきてくれたことが、心配してくれたことが堪らなく嬉しかった。なんだか胸がいっぱいになって、俺は椹木さんに力いっぱいしがみついた。同じ強さで抱き返されたら、どうしてか泣きたいような気分になった。
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