第6章

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「椹木さん! いますか!?」  反応はない。通常ならガラス部分から室内の電気を確認できるのに、今はダンボールで塞がれているのでそれも見えない。 「……あ」  ふと預かっていた合鍵を返却そびれていたことを思い出して、慌ててバッグから取り出す。解錠して扉を開が、部屋の中は真っ暗だった。少し躊躇ったあと、奥の扉に近づきノックするが反応がない。 「いない……」  スマホで時刻を確認すると、日付けが変わってから十分ほどが過ぎていた。  飲みにでもいっているのだろうかと思って、すぐにそうじゃないことを思い出した。 「アイカさんの店!」  アイカさんの出勤がラストまでの日は、椹木さんが店まで迎えに行ってそのまま二人で帰宅している。そのことを思い出して慌てて事務所を飛び出した。  店の営業は確か二十四時までだから、もしかしたらちょうど今頃椹木さんがお店に迎えに行っているところかもしれない。どうやらすんでのところで入れ違いになったらしい。店の場所はここから遠くないし、急いで追いかければ間に合うはずだ。  商店街のアーケードを全速力で駆け抜けて駅前に戻ると裏手に入る。静まり返った商店街とは打って変わり、この辺りは飲み屋が多い為まだ人通りも多い。  路地裏に入って【クラブ・アクア】の裏口にたどり着いたけど、それらしい人影は見当たらない。  確か二人は店から大通りに向かって、そこからタクシーに乗って帰宅していたはずだ。防犯面を考えれば、表の通りを歩く方がいいに決まっているが、アイカさんの職業柄そうもいかない。周辺には客がいるかもしれないからだ。  すでにタクシーに乗ってしまったあとかもしれない。だけど大通りまで向かってみることにした。
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