第6章

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 タクシーに乗っている間も頭の中がぐるぐるしていた。 (俺の方が可愛いってどういうこと?)  ……というか俺はどうして普通に椹木さんと帰っているのだろう。  疑問を脳内で繰り返しつつ、すぐ隣の存在に緊張しまくっていた。 「そうだ。森下が俺が探偵だって知ってもアイカちゃんの彼氏認定してた理由、わかったぞ」 「え」 「アイカちゃんが言ってたんだよ、森下に。最初付きまといをやめるように直で話した時、彼氏がいるって嘘ついたって言ってたろ? その時に相手の詳細訊かれて、年上の探偵だって」  なるほど。そんな事前情報があれば、アイカさんが探偵事務所に入っていくのを目撃しても『探偵に相談』ではなく『彼氏に会い行った』になるだろう。アイカさんが咄嗟の嘘をついた時、どうして『年上の探偵』と言ったのか。その理由はもう俺にもわかっている。  その会話以降、椹木さんはめずらしく黙り込んだ。いつもなら俺だけではなく運転手さんにまで声を掛けるくらい話し好きな人なのに。 (なんか、息苦しい……)  指一本動かすのすら意識したし、十分程の短い道のりがとてつもなく長く感じた。 「それで、ここの鍵を返しに来たんだったか?」  事務所につくと、先に入室した椹木さんが俺を振り返ってニヤっと笑った。 「……っ」  あれが咄嗟に思いついた言い訳だということくらい、椹木さんはわかっているはずなのに。からかうような態度にやっぱりムッとして、学習能力のない俺はバッグをあさって合鍵を取り出した。 「……そうですよ」  鍵を突き出すように掲げると、椹木さんは「ん」と手を差し出す。よこせ、ということらしい。
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