第2章

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第2章

 現在俺は平日の学校がない時間はほとんどこの事務所で働いている。仕事内容は経理と書類作成、資料の管理、その他雑務。当初、今までアルバイト経験のなかった俺が使い物になるのか不安はあった。けれど、人と話すのは好き、調査も好き、でもデスクワークが大の苦手な事務所の主は俺をえらく重宝がってくれた。……だがしかし。支払われる給料は、ここはどこのド田舎かブラック会社かと目を疑うような金額だ。  それでも俺がここにいる理由は、俺がこの人に弱みを握られているからに他ならない。その『弱み』は、正確に言えば『借り』だ。とてつもなく大きな。  俺は昔、……いや、昔と呼ぶにはまだ真新しすぎるほんの三ヶ月前、両手が後ろに回る寸前で椹木さんに救われたのだ。冤罪ではない。本当に犯罪行為に及んでいた。言いわけをするつもりはないが、自分のしていることが犯罪なのだという自覚はほとんどなかった。というより、周りが何も見えなくなっていた。  思えばそれまでの人生、勉強ばかりしてきた。それ以外に特にすることがなかったから。友人と呼べる存在もおらず、……もっと言ってしまえば家族ともうまくいっていないため、人間関係がとにかく希薄だった。学校や街で同世代を見掛けても、やれ『リア充』だ『DQNども』だのと内心で毒づいていた。  活発な性格でもないし、人好きのする容姿をしているわけでもない。いわゆる『ぼっち』。だけど別にそれで構わなかった。むしろわずらわしいことがなくて楽だと思っている。人は一人でも生きていけるし、群れる必要などどこにもない。そんな毎日の中で、俺は想定外の出来事に見舞われる。
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