第3章

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第3章

 依頼人である山本美幸の夫、山本博紀は、大手不動産会社の店舗で店長を務めている。現在三十九歳で、二十五歳の奥さんとは年がかなり離れていた。仕事の帰りが遅い日が続き、休日は書斎にこもりきり。事前情報をもとに、ほぼ確実に帰宅が遅い週の後半、水、木、金曜日に調査日を絞り込んだ。 『ちょ……嘘だろ』  水曜日。定時ならば十九時に退社する山本を尾行するため、事前に近隣に潜伏するという。そこまではいい。初めての調査に不安はあるが今直面している問題はそこではない。もうじき夕方になろうかという頃に椹木さんはいそいそと大きな紙袋を持ち出した。全面ラメ加工された派手なデザインからして、若い女性向けのアパレルブランドのものだろう。不似合いなそれに怪訝な顔をすると、椹木さんは笑顔でそれを差し出してきた。 「ほれ、今日のお前の衣装」 「はい?」  反射的に受け取り、中身を確認すると……。 「これっ、女物じゃないですか! なに考えてるんですか!?」 「なにって変装だろ。探偵っぽいじゃねえか」 「探偵は変装っていっても眼鏡とか帽子くらいだって書いてあったんですけど!」 「は、何に?」 「探偵学校の講師が書いてる探偵入門書」 「お前そんなの読んできたのか? 真面目だな」  調査に加わると聞いて、とりあえず知識を得ようと思い、その本を読んでみたのだ。
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