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それを両手で握り締めると、ピシッとヒビが入った。次の瞬間聞こえたのは、割れたガラスの音。テーブルへゆっくりと広がる茶褐色の液体。
スローモーションで落ちていく透明な破片がキラキラと跳ねた。
濡れた右の手のひらを開くと、滲んだ赤色が広がっていく。なんの痛みも感じない。ただ、手首へ伝う赤色を眺める。
「ちょっ! ゆずっ! なにやってんだよっ!」
部屋へ入ってきた拓海が悲鳴を上げた。拓海が手を切ったわけじゃないのに、痛そうな顔してる。その顔を見たら、どんどん手のひらが、熱をもったみたいにジンジンしてきた。
「拓海……コップ割れちゃった」
そう言って顔をしかめると、拓海が慌てた形相で手首を掴んだ。ティッシュで血を拭いながら傷跡へ顔を近づける。
「ガラスは刺さってない?」
「……と思う」
「念のために病院行くか」
「いいよべつに」
「よかねーよ」
自分の家で出したコップで友人が怪我をしたのだから、慌てるのも無理ない。
でも、俺、力いっぱい握り締めたんだよ。馬鹿みたいに。そしたら割れたんだ。だから、拓海は悪くないよ。
でも今はそんな話が出来る状況じゃないらしい。
結局俺は、拓海と拓海んちのおばさんと三人で車に乗り、近所の病院へ行った。幸い、ガラスの破片は傷口へ入っておらず、傷も浅かったから絆創膏と包帯を巻き処置は終わった。
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