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大したことないのに。
拓海は「荷物持ちだ」と言って俺の学校カバンを持ち、一緒に家まで歩いてくれるという。夕暮れも終わり、藍色に染まった空を見上げながら拓海へ謝った。
「……なんか、ごめん」
「いやいや、こっちこそごめんだよ。うちのコップなんだし」
「うん、違うんだ」
「なにが違うの?」
「コップだって意識してなかった。あんま苦しくて、ここが。だからギュッて握ったら割れちゃったんだ。コップ」
拓海が呆れた表情になって立ち止まった。
「……え? どこが?」
「ここ」
俺は拓海の胸を、包帯を巻いた手でコツンと叩いた。拓海がその手を見下ろし、また顔を上げた。
「……なんで?」
「教えてやんねぇよ。ばぁか」
目を丸くする拓海から、カバンを奪い肩へ引っ掛ける。
「ここでいいよ。サンキュ。また明日」
「お、おう……」
想いを伝えようなんて思ったこともない。でも。そんなポカンとした顔を間近で見るとキスしたくなるんだよ。
いつまで我慢できるのか自分にも分からない。
でも今日は、少しだけ心の中を打ち明けたから、眠れるんじゃないかな。
おわり
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