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放課後の教室に響く、大きな声が俺の耳に入った。
それも、俺を呼ぶ一際大きい声だから、こちらとしては恥ずかしい。
「紅月ってばー、さっきから読んでるのに無視かよー。俺、悲しくなっちゃうよ」
「あっそ、勝手に悲しんどけ。でもって、うるさいから黙れよ」
「やーだね、黙ってやるもんか」
そう言って一人で、ぺらぺらとどうでもいいことを喋るこいつは、本條真。
茶髪に黒い瞳をした、若干チャラさを感じるような、お調子者。
こいつは、誰が相手でも、いつもこうだ。
俺は手を動かしながら、一応話に耳を傾ける。
すると、こいつはある単語を発した。
「あのさー、昨日断悪が出たらしーぜ?」
断悪……人ならざる力、いわゆる異能を持ち、魔界に生きるモノを従える人間。
だがこれは、あくまでも噂話であって、本当がどうかなんてのは知らない。
「何してんだ、二人とも」
突然後ろから声がしたと思えば、見知った顔が立っていた。
黒髪の少し長い髪に、黒い瞳。
クールな印象を与えるこいつは、谷本静。
「おっ、静!あのさあのさ、昨日断悪が出たんだってさ!一度でいいから、俺あってみてーよ」
「……俺は別に、興味ないぞ?」
「ひどっ、そこはのってくれよ!」
この二人を見ているのは、面白い。
アホな真に、天然な静。
こいつらとは、小学校の頃からの、幼馴染だ。
白髪に紅い瞳で目立っていた俺の傍には、人は良りたがらず、あいつがいなくなって以来、ずっと一人だった学校生活で、話しかけてくれたのがこの二人。
「さてと、俺帰るわ」
外から、5時を知らせる教会の鐘が鳴っているのを聞き、俺はそう告げた。
今日は6時からセールだから、それまでにスーパーに行かないといけない。
「そういえば俺……日誌取りに来たんだった」
「そういや今日、静は日直だったな。ぁ、そういや俺も、担任に呼ばれてるんだったな。しゃーない、行ってくるか」
二人とも、それぞれの用事を思い出したらしい。
「んじゃ、また明日な紅月!」
「明日は期待してる」
「おう、じゃーな二人とも」
二人が俺に背を向けて職員室に向かうのを見送り、俺もスーパーへ向かうべく、その場を後にした。
明日は弓道の試合だ。
睡眠はしっかりとりたい……。
ぁ、でもその前に晩飯作らないと、優ちゃんにどやされるか。
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