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____今日はとてつもなく眠い。
すべては昨日のせいだ。
「やっぱスゲーな、紅月は」
「あぁ、天才って言葉が似合うよな」
「俺は天才じゃないよ。俺は知ってる、俺よりもっとすごい奴」
弓道の試合が終わって、三人でぶらぶらと歩く帰り道。
昨日のように、人が少ない路地裏から、繁華街へ向かうその途中____鼻をかすめる嫌な臭いがした。
“死臭”
まさかと思い、俺はあたりを見渡す。
すると急に、真が何かを指差した。
「おい、あれなんだよ」
「酷い臭いだな」
「二人とも、後ろに下がれ!アレには近づくな」
思わず叫ぶと、魔物と対峙していたらしい、悠介と鈴華がこっちに気づいた。
それこそ昨日、名前こそは教えたが、もう二度と会うこともないだろうと思っていた相手に、こうもまた直ぐに会う羽目になるとは、思ってもいなかった。
「恭くん!?なんでまた」
「俺がききてーよ!ったく、なんで」
どうする、今逃げれば助かる。
俺には……こいつらがどうなろうと、関係ない。
二人を連れて逃げろ……動け。
動けよ、俺の足!
ずきずきと頭が痛む。
脈を打つように、何かを訴えるように。
俺は……俺は今の日常を、壊したくはないのに!!
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
俺の耳に、真の叫び声が木霊する。
一瞬のすきを突いた化け物が、真の首に喰らいついていた。
大きな牙が深く突き刺さり、血があふれ出るのをみて……俺の中の何かがきれた。
「真!!」
いつも冷静な静の叫びが、後ろで聞こえる。
俺は気づけば体が勝手に動き、化け物に、己が持っていた刀で斬りつけていた。
流石に普段から持ち歩いてるわけじゃない、今日は何となく、嫌な予感がしたんだ。俺の嫌な予感が外れたことは、ほとんどない。だから、嫌な予感がしたときにだけ、この刀を持ち歩くことにしている。
それが、こんな形で役に立つとは思わなかったが。
俺は片腕を切り落とし、刀を持っていないもう片方の腕で、真を抱えた。
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