一話《前半》

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「うう・・・」 寒い風が吹きます。冷たい冷たい、真冬の風。 店主は「寒い寒い」と言って店の戸をピシャリと閉めます。 二十分程たった頃です。 お店の時計は十一時を指しています。 外からざっざっと足音が聞こえ、ガラガラガラ。 戸が開きました。 女の人です。 着物を着た若い綺麗な女の人です。 「いらっしゃい」 「こんにちは。ついさっき雪が降り出してね、強く ならないうちにと思って。」 あらまぁ雪が?もうそんなに冷え込んでしまっ たんですねぇ。 「今日は随分と寒いからなぁ・・・いつものでいいかい?」 店主がそう聞くと、女の人はすこし照れくさそうに 「お団子もつけて頂ける?みたらしの、あまいやつ」 といって口元に手をやりました。 なんといじらしいこと。 店主は「あいよ」と嬉しそうに言ってお盆の上にお菓子を乗せていきます。 「今日は雪が強くなるようだし、教室はお休みしようかしら」 女の人はなにやら四角い鉄の塊をスイスイと指先でなでながら言いました。 「生徒さん、最近来たよ。教室で食べたお菓子が美味しくてーなんていってよ。」 「あらほんと?私もここのお菓子、大好きですよ」 時計の針がカチンと響きました。 「嬉しい事言ってくれるねえ、はい、1970円」
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