一話《前半》

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「はい、ありがとうございます」 「まいど」 女の人はぺこりと頭を下げてお店をあとにしました。 店主はふぅっとため息をつくと、カウンターの奥、 自分の家に繋がる小上がりに座り、眼鏡をかけ、 新聞を読み始めました。 ここは『風鈴街風鈴町』という名前の商店街。 の、中にある和菓子屋です。 との外側にあるのれんには、梅の花と「鈴」の文字が描かれています。 ここは和菓子屋「鈴-りん-」 そして 「にゃーん」 「おお、鈴はこたつが好きだなぁ。猫はこたつが丸くなるってな。」 わたしの名前も「鈴(りん)」です。 去年の冬、店主に拾われてから店主の家で暮らしています。 お店の時計がボーンと鳴りました。 十二時です。 店主は一度のれんを下げ、お昼休憩を取ります。 わたしのお昼ご飯は店主特製のねこまんまです。 お昼が終わると店主はまたお菓子を作ります。 平日の木曜日です。 午前は一人、多くて三人程のお客が来ますが、 夕方になるとわっと人が増えます。 お迎え帰りのお母さんや学校帰りの学生さん。 また、お散歩がてらのおばあちゃんおじいちゃん。 とにかくたくさんの人が来ます。 だから店主は作ります。 お昼を食べ終えてから三時までのおよそ二時間二十分。 店主はお客さんが大好きです。 そしてこのお店、この街が大好きです。 そんな店主がわたしは大好きなんです。 少しだけ。 雪が少しだけ弱くなりました。 お散歩にでも行きましょうか。 「おや鈴、どこか行くのかい?行ってらっしゃい」 「にゃーん」 いってきます。
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