心の奥深く、鍵をかけて

3/17
前へ
/17ページ
次へ
高校を卒業してから6年、俺達も24歳になった。時の流れの速さに多少驚きつつも、久しぶりに合う顔ぶれを懐かしく思った。 「なんか彰人がスーツ着てると違和感があるな」 「ホントホント。高校の時は俺達とバカばっかりやってたからなぁ。そんな奴でもちゃんと仕事してるんだもんな」 会社から直行してきた俺のスーツ姿を見て、周りの奴らが笑いながら言ってきた。 「これでも営業部ではトップの売上を上げてるんだからな。お前らとはデキが違うんだよ」 そんな風に返しつつ、俺は当時の友人達とのやり取りを楽しんでいた。 「彰人は何飲む?ビールで良いの?」 ふと、後ろから声をかけられ、俺は振り返った。 その瞬間、一瞬だけだったけど、胸の辺りがドクンと小さく脈を打ったことに、俺は気付いた。 「…音羽(おとは)」 無意識に、俺は彼女の名前を呼んだ。 当時腰ほどまであった長い黒髪は、今は少し茶色に染まっていて、肩にかかるほどまで短くなり、毛先だけパーマをかけている。軽く化粧をしていて、それがまた大人っぽくなったと感じられる。 だけど、彼女の明るい笑顔は、相変わらず変わっていない。 「…彰人?」 俺が何も答えないことに、彼女が首を傾げながら再び声をかけてきた。 「え?ああ、うん!ビールで」 俺が慌てて答えると、音羽は手に持っていたビール瓶を見せるように軽く持ち上げた。     
/17ページ

最初のコメントを投稿しよう!

17人が本棚に入れています
本棚に追加