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「さ、お別れ、言ってあげて。」
女の人が、涙声で私に言う。
「渡したいものがあれば、この箱の中に入れてね。おばぁちゃんの近くに入れておけば、天国に持って行ってくれるからね。」
私が抱えているあけびの実を見て思ったのだろう。女の人は私にそう、囁いた。
「ばーちゃん……」
私が呼ぶと、
「なんだい?何か良い事でもあったかい?」
なんて、くしゃくしゃな顔を綻ばせて私の言葉を待った、老婆。
「ばーちゃん、ばーちゃん……ばーちゃん!」
何度呼んでも、老婆は返事をしなかった。
私の頭を優しく撫でてくれたその手は……
……冷たく、そして固かった。
「命の実……5個も持ってきたんだ。早く生き返ってあの店に行こうよ。あの店……僕のお気に入りなんだ。」
取って来たあけびの実を、老婆の組まれた手の上に置き、何度も何度も声をかける。
ちょうどその時、私を追って両親が部屋に入ってきた。
「ご迷惑になるから、もう帰りましょう。」
「嫌だ……ばーちゃんは生き返るんだ……」
掴まれた手を、必死に振りほどこうとする私。
「今日は、来てくれて……ありがとうね。」
「僕は勇者だ!僕が見つけてきた命の実は、絶対に効くんだ!!」
必死な私の言葉に、涙をこぼす女の人。
そんな私の頬を、父が張った。
ーーーパチン!---
乾いた音が、部屋に響く。
私は、わけもわからぬまま、衝撃を感じた頬を押さえたまま、父を見据えた。
「ここは、ゲームの世界じゃないんだ。亡くなった人は……生き返らないんだよ」
父のこの言葉が、私の心に、不思議なくらい響いたのを、今も覚えている。
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